衰退した観光地の代名詞だった「熱海」は、なぜ再生できたのか?
最近、熱海がやたらと盛況だと思っていたら、凄い「仕掛け人」がいたという話。
家から比較的近いので、最近ときどき熱海に行くのですが(日帰り温泉)、驚かされるのが「人の多さ」です。しかも、結構若い人が多いんです。
駅前から海へ向かう商店街(熱海銀座)とか、日曜とかは歩くのが大変なくらい混雑してます。
人気のお店とかは行列ができていてビックリします。「しなびた昭和の温泉街」というイメージで熱海に降り立つと、そのギャップに驚かされるはず。
最近、駅ビルもリニューアルして綺麗になったので尚更です。
熱海って想像以上に海きれいです!
熱海やるな〜と思っていたんですが、どうやら「仕掛け人」がいたことが発覚。
それがこの『熱海の奇跡』の著者、市来広一郎(いちき こういちろう)さんです。
書籍全般は「熱海の街全体をリノベーションする」ということで、いわゆる「地方創生」「街おこし」的な内容なのですが、今回は「マーケティング的な視点」で本書と熱海の再生を読み解きたいと思います。
宿泊客数が246万人から308万人へ20%以上も急増
熱海を知らない(というか自分もよく知りませんでしたが)方のために、熱海のたどった「衰退の歴史」をざっくり紹介します。
熱海は古きよき昭和の時代には、社員旅行の代名詞として興隆を極めました。
ピーク時の1960年代には年間で540万人の宿泊客がいましたが、そこから半世紀か行けて衰退。2010年ごろには半分の246万人に落ち込みました。
バブル崩壊の煽りも受けて企業の保養所が次々と潰れ、大型温泉ホテルも次から次へと廃業に。
そこから、ここ数年で20%以上も宿泊客が急増、V字回復したので「熱海が再生した!」とメディアからも注目を浴びるに至っています。
ビジネスの手法を用いて街を活性化させる
著者の市来さんは熱海出身で、いわゆる「Uターン者」として、地元の熱海再生に取り組みました。
その市来さんのアプローチを一言で言うと、「ビジネスの手法を用いて熱海を活性化させる」です。
具体的には、
- NPO法人atamista(アタミスタ)が提供する住民・別荘保有者・観光客のための体験型交流イベント事業「オンたま」
- 株式会社machimori(マチモリ)が、熱海の中心商店街(熱海銀座)の空き店舗をリニューアル、カフェやゲストハウスを運営
など、熱海の魅力的なコンテンツ作りを推進し、ビジネスとしてもしっかり稼ぐことで持続的な活動を可能にし、なおかつ人を呼び込むことに成功しました。
ゲストハウスMARUYA
熱海のゲストハウス guest house MARUYA |
熱海銀座の空き店舗を改装してつくったゲストハウスです。
存在知りませんでした。とてもおしゃれ。泊まってみたいな〜。
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海辺のあたみマルシェ
海辺のあたみマルシェ ~クラフト&ファーマーズマーケット~ |
二ヶ月に一度、熱海銀座を歩行者天国にして開催しているファーマーズマーケットです。普段は600人程度の人通りの商店街に6000人が集まるそうです。すごーー。
シェアオフィスnaedoco
熱海のコワキーングスペース naedoco Collaboration Workplace
さらに、商店街の空き店舗を改装したコワーキングスペースもあります。
これまためちゃくちゃお洒落。
起業家が集い、イノベーションの発信基地としての役割を果たしています。
他にも本のなかではさまざまな「熱海再生」の仕掛けが紹介されていました。
温泉だけと思ったら大間違い。すごいぞ熱海!
マーケティング視点で「熱海再生」を考えてみる
偉そうに「マーケティング視点で考える」とかのたまわりましたが、そう題して描き始めてしまったので少しだけ。
地域を再生する、観光客を呼び込む。
そのためには「数ある観光地や温泉街の中からいかにして選ばれるか」ということがポイントになります。昭和の古き良き時代と異なり、娯楽は星の数ほどあるのです。
さらに、市来さんが『熱海の奇跡』のなかでも触れてますが、街を活性化するためには「一度きてそれっきり」ではダメなわけです。
熱海のファンになってもらい、繰り返し足を運んでもらうことがキモなのです。
マーケティング的な視点で言えば
「USP(ユニーク・セリング・プロポジション)=競争優位性」
を明確化し、構築すると言うことだと思います。
さきほど「温泉だけじゃない!すごいぞ熱海!」と冗談交じりに書きましたが、温泉だけではダメなのです。
なぜ熱海なのか。
わざわざ熱海に足を運ぶ理由はなんなのか。
他にはない熱海だけの何か、は何なのか。
それを突き詰める、というよりもその競争優位性(USP)を「新たに創造したこと」に、市来さんと熱海のV字回復のポイントがあるように思いました。
クリエイティブな30代に選ばれる街「Third Prace for Crietive 30's」
これは、市来さんと市来さんが創設した熱海再生の会社「株式会社machimori」が掲げたコンセプトです。
「誰のための、どんな街にしていくのか」
ここを明確にし、それを具現化する施策を打っていったことが、熱海再生のポイントになったではないかと思います。
以下は、なぜ「クリエイティブな30代に選ばれる街」というコンセプトを策定したのかを市来さんが語った『熱海の奇跡』の一節です。
私たちがきてほしいクリエイティブな人とは、必ずしもデザイナーやアーティストではありません。「自ら仕事や暮らしをつくっていく人」だと考えています。
自分たちで自分たちの暮らしや街をつくるという意欲にあふれたクリエイティブな人が集まってほしい。そうした人たちが活動しやすい、チャレンジしやすい環境をつくることが私たちmachimoriの仕事だと思ったのです。
さらに、なざ30代かというと、30代は子育て世代でもあるから。
より若い人にとっては、30代が格好良く働き、暮らしている姿を見れば、いずれ自分たちもこの街で暮らそうという憧れにも繋がる。
「おしゃれなゲストハウスをつくろう」
「歩行者天国イベントをやろう」
「起業家向けのコワーキングスペースをつくろう」
という施策(点)ありきではなく、「クリエイティブな30代に選ばれる街」を目指す、という明確なビジョン(絵)を描き、そのビジョンと連動した施策が花開くことで、いわゆる普通の「街おこし」とは全く違う結果をもたらしたのではないかと勝手に推察しました。
そして、実際に2016年ごろからは、熱海に面白いプレイヤーが続々集まってくるようになったそうです。
- 熱海を拠点に活躍するファッションブランド「Estable of Orders」
- バール「caffe bar QUARTO」
- ジェラード店「La DOPPIETTA」
など、東京だけでなくパリなど海外でも展開する注目ブランドが熱海に進出していきているのです。
熱海のリノベーションと再生はまだまだ道半ばということですが、市来さんがこれだけ結果を出し始めたことで、行政も積極的になり、さらに改革が加速しているようです。
「ビジネスの手法で街を活性化する」
「衰退の代名詞だった、熱海がなぜ再生できたのか」
ご興味が湧いた方は、ぜひ『熱海の奇跡』を手にとってみてください。
シンプルに、市来さんの起業物語としても面白いですし、読むと元気が出る一冊です(^^)